4月特集〜春を味わう伝統工芸品〜

「春」をテーマに、江戸小紋の古帛紗、雨上がりの虹を思わせる螺鈿を用いた漆芸作品、和硯の代表格雨宮硯の作品をご紹介します

4月特集 〜春を味わう伝統工芸品〜

 
 3月から4月にかけて降る穏やかな長雨は「春雨」「菜種梅雨」などと呼ばれ、冬の冷たい雨から一転、あたたかな空気のなかで降る細やかな雨を意味し、春の季語として親しまれています。
 

春雨(はるさめ)の木下(こした)につたふ清水哉(芭蕉)

 
 桜の季節に雨がつきものなのは、松尾芭蕉の時代から変わらないようです。この句には「苔清水」との前書きがあり、西行の「とくとくと落つる岩間の苔清水くみほす程もなきすまひ哉」という歌を念頭に詠まれています。「春の雨が、桜の樹々を通じて地中で浄化され、やがて清らかな湧き水となって再び地上にかえってくる。西行の詠んだ湧き水は、元をたどると花の雫なのだ」という芭蕉の驚きが伝わってくる一句です。
 
 春の雨にちなみ、祖父の代から重要無形文化財「江戸小紋」保持者である、小宮康正先生の「雨間(あまま)」という作品をご紹介いたします。
 こちらは染め・型ともにいわゆる「人間国宝」の作品です。型は、縞彫りの達人と呼ばれた重要無形文化財保持者 故・児玉博(こだまひろし)先生の手によるもので、縞筋の一部が途切れて雨が途中で止む情景のように見えることから「雨間」と名づけられています。雨間に咲く花に見立て、桜、朝顔、むくげ、山茶花柄の帯などに合わせても粋な古帛紗です。年中通してお楽しみいただけて、雨の日がちょっぴり楽しみになりますね。
 ところで、江戸小紋のルーツは、江戸時代に武家の礼装である裃に採用されたことにあります。当時“奢侈禁止令(しゃしきんしれい)”という、いわゆるぜいたく禁止令が出ており、着物の布地の種類から色まで厳しく指定されていました。この質素・倹約を定めた禁令こそがある意味で職人の気質に触れ、染の技術と繊細な型紙の技術が発展したとも考えられています。
 
▼作品紹介

◆染織◆古帛紗「雨間」

◆染織◆古帛紗「雨間」小宮 康正先生
 

~小宮 康正先生からみなさまへ~ 

一色で染められる江戸小紋は、宝石のような透明感のある色、何年たっても輝きを失わない、冴えある色を目標としています。江戸時代の技術を受け継ぎ、さらに改良し現代に即した作品を手掛けています。
 
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 雨上がりに見つけるとうれしいのが「虹」。七十二侯の虹始見(にじはじめてあらわる)は、4月中旬頃にあたります。虹は夏の季語ですが、淡くすぐ消えてしまう「初虹」は春の季語になります。
 貝片の採取は、真珠貝や夜光貝の真珠層を薄く削る・剥ぎ取るといった方法で行われ、作品にとって理想的な輝きを持つ部分を切り出してから使用されます。用いられる貝は薄貝と厚貝に大別されます。薄貝は模様に漆で張り付けるのに対し、厚貝は彫った模様の部分にはめ込んで使う象嵌の手法が用いられます。夜光貝や鮑はパステルカラーのような柔らかい色調を持ちますが、孔雀貝(アバロンシェル)と呼ばれる品種など、ブラックオパールやラブラドライトのように鮮やかな色味と金属光沢を持つ貝が用いられることもあります。
 一口に螺鈿と言っても表現の幅はきわめて広く、作品に込められた作家の感性とアイディアをお楽しみください。

◆漆芸◆ 色切貝飾箱「風波」

◆漆芸◆ 色貝蒔絵飾筥「南」松崎森平先生
 
 松崎森平先生は、漆芸作家として神奈川県を拠点に螺鈿や蒔絵での作品制作をなさるかたわら、近年は蒔絵技法を応用し画家としても活動なさっています。また、夜光貝を用いた沖縄独自の螺鈿技術を学ぶために沖縄で研究制作を行うなど、拠点を越えて研究活動にも熱心でいらっしゃいます。創作以外には、日本文化財漆協会 岩手県植栽地担当理事として漆の木の植栽活動を行い、漆文化を次世代に残すためご尽力されています。
 
〜松崎 森平先生からみなさま~
沖縄をはじめとする南方の異国文化への憧れが表現されています。日本の伝統漆芸技法と海外の素材を組み合わせることで新たな表現を目指し、大理石を削り出して蓋を作成し蒔絵で装飾しています。

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◆漆芸◆ 乾漆赤抜螺鈿合子「五重唱」

漆芸◆乾漆赤抜螺鈿合子 「五重唱」
 
〜奥窪 聖美先生からみなさま~
五角形に収めた花々は、正面に向ければどれも主役となり得るのに、他の花とも共鳴し合える、そんな調和の楽しさを表現しています。大切な物をしまうのに相応しい様に内側は金平目地にしています。頻繁に開けるのではなく中に仕舞い込んでいるという気持ちになってお使いいただければと思います。或いは何も入れずに外側の多角形を、向きを変えながらお楽しみください。
 
 
 
 
 日本において、春は新生活のはじまる季節です。年始に書初めを楽しむように、新年度にも書に触れてみてはいかがでしょうか。 書道は集中力向上やリラックス効果が期待され、医療現場にも作業療法として採用されるほどの効果があるそうです。
 書道具の筆・墨・硯・紙を「文房四宝」と呼びます。なかでも、摩耗が少なく骨董価値の高い「硯」が最も重んじられ、多くの文人の愛でる対象となりました。硯の材料は石以外にも陶磁器や金属などバリエーションに富んでおり、多様なデザイン・サイズのものが制作されています。
 書道用具はその歴史から、中国製と日本製に分けられます。そのため硯には「唐硯」と「和硯」があり、代表的な和硯には赤間硯(山口県宇部市)、雨畑硯(山梨県早川町)、雄勝硯(おがつすずり・宮城県石巻市)、那智黒硯(三重県熊野市)などがあげられます。
 ご紹介する「環池硯」は、雨畑硯の硯匠・雨宮 弥太郎先生の想いから「身辺に置いていただき心を休める存在として」すなわち「アート作品」として、お楽しみいただきたく存じます。
 
 雨宮弥太郎先生は、320年以上の歴史を持つ甲斐雨端硯本舗の13代目硯匠です。幼少期から先代・雨宮弥兵衛氏の姿から技を学びつつ、現代美術に魅了されたことをきっかけに、東京藝術大学に進学し広く彫刻を学び、「硯は伝統を礎とした現代彫刻である」という信念に至ります。雨端硯は墨を磨る時間そのものが心を落ち着かせる「精神の器」と捉え、素材の石と対話しながら理想の形を追求しています。また、次世代に硯の魅力を伝えるべく、子どもたちに墨磨(す)り体験を提供する活動をなさっています。先生の手がける硯は、日本文化を支える誇りとともに、芸術作品として未来へ受け継がれていくことでしょう。
 
◆諸工芸◆環池硯

◆諸工芸◆環池硯

~雨宮 弥太郎先生からみなさまへ~
  硯に向き合うことは禅の石庭に向き合う事と同義と考えています。もちろん、墨を磨ることができますが、身辺に置いていただき心を休める存在としてお楽しみ下さい。
※「第2回日本工芸会会員賞 飛鳥クルーズ賞」受賞者による作品です
 
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