伊勢﨑 淳 先生からのメッセージ
備前焼は、時代ごとに革新的な作品を生むことで約800年もの間、途絶えることなく続いている焼き物です。焼き締めという技法を用いて、釉薬は使用せず自然の素材を生かしています。
作品を選ぶ際は、自分の住まいや環境に合った、好きな形を選んでください。我が家にすばらしい作家たちの作品がくることを想像して楽しんでください。
備前焼作家 伊勢﨑 淳 先生について (重要無形文化財「備前焼」保持者)
出典:「世界に誇る物語ちゃんねる」公式YouTube/【Youtube限定公開】人間国宝 伊勢崎先生 独占インタビュー(特別編)
伊勢﨑 淳先生は、岡山県備前市を活動拠点とする陶芸作家です。岡山県備前市を中心に作られ、須恵器の伝統を受け継ぐ歴史あるやきもの、「備前焼」の人間国宝に認定されています。
迷うことなく教職を辞め作陶の道へ
伊勢﨑先生の生まれ育った備前市は、古代から窯業が営まれ備前焼の産地として伝統技術が脈々と受け継がれる土地。2017年には日本六古窯として日本遺産に認定されています。幼い頃から「やきもの」は生活の一部。父の作陶する姿は日常の光景で、街に出れば友人の家も皆、やきもの屋。抵抗なく備前焼の世界に入っていったそうで、「恐らく、自分でも嫌いじゃなかったんでしょうね」と、先生。

ただ、時代は戦後の混乱期。やきもの屋は相次いで廃業、備前で作家として生きることは容易ではない選択だったといいます。先行きを案じた父親に勧められ一度は教員になるも、父の死後は迷うことなく教職を辞め作家としての歩みをスタート。「ゼロからのスタートだった」と振り返りますが、苦しい時代を経験したからこそ、精神的にはむしろ強くなれたと語ります。
備前焼の本質は、「土」と「焼き締め」。
2~3日で焼けるやきものが多いなか、備前焼は10日以上の長時間焼成が必要です。ゆっくりと温度を上げながら焼き締めることで、世界に類を見ない独自の質感と表情が生まれます。
備前焼の最大の特徴は、釉薬を使わず、高温焼成によって「土そのものを焼き締めて模様を生み出す」点。主原料はこの土地一帯の山々から流れ込んだ鉄分の豊富な陶土なのですが、これが有機物を多く含み陶芸用としては扱いにくい。そのため、先人たちは創意工夫を重ね、土の「個性」を活かす焼成技術を生み出してきました。「素朴な技法だからこそ、時代時代の作り手が感性と革新を持ち込んできた」と先生は分析します。

やきものの需要をかんがえる
「備前すり鉢投げても割れぬ」という言葉が生まれたのは、すり鉢が大量に必要とされた室町~桃山期。その強靭さが評判を呼び、日本全国に備前焼の存在感を知らしめました。しかし、江戸時代になると使い手の美意識が変化し、より華やかなものへと需要が移っていきます。すると、すり鉢のような日常雑貨は全く相手にされなくなりました。
備前焼の素晴らしいところは、そこで「革新の精神」で新しいものを生み出していったところです。土の特徴を生かした彫刻的なオブジェ、例えば唐獅子などの置物を作り、活路を見出しました。
備前焼の先人たちが「火を絶やさずに今日まで続いてきた」ということは、どの時代においても常に新しいものを生み出してきた結果であると、伊勢﨑先生は分析します。

火をたやさずに、伝統を継ぐには
先人の築き上げた伝統を次世代につなげるため、先生が重視するのは「価値をどのように生み出すか」という観点。「良い作品を作るのは、結局は“作り手”なんです。多くを見て、感性を養い、創造性を加えて、新しいものを生み出す努力を続けないといけない」と語ります。
そんな伊勢﨑先生の好きな言葉は、孔子『論語』文中に出てくる「忠恕」、すなわち「思いやりの心」という意味。「人間が生きるうえでのあり方」として大切にしているそう。
素朴であるがゆえに、無限の深さを持つ備前焼。炎と向き合う日々の積み重ねの先に生まれる作品から、ぜひ先生の歩んできた時間と、強靭でしなやかな心を感じとっていただければ幸いです。

















