単色の染付磁器や青磁が主流だった17世紀後半、有田に新しい色絵磁器(赤絵)が誕生しました。乳白色の「濁手(にごしで)」と呼ばれる素地に色鮮やかで優美な意匠が描かれた「柿右衛門様式」は、日本国内のみならず欧州貴族を虜にします。それから400年にわたり、有田磁器の絵付け技術を継承・発展させてきた「酒井田柿右衛門」家。十五代 酒井田柿右衛門先生は、「柿右衛門」様式の技術と品格を今に伝えながら、現代に愛される「柿右衛門」のありかたを日々考え、制作に取り組んでいます。
十五代 酒井田柿右衛門先生の作品の特徴
十五代 酒井田柿右衛門先生からメッセージ
乳白色の素地に赤絵(色絵)を施す「濁手」と呼ばれる伝統的な技法を用いて制作しています。柿右衛門の特徴である「余白」「非対称の構図」「色彩」を生かしながら制作した作品です。その色合いが持つ明るい雰囲気を楽しんでいただけたらと思います。
柿右衛門様式とは
柿右衛門様式の特徴は、青みを抑えたやわらかな乳白の素地「濁手(にごしで)」に、古九谷の意匠を受け継ぐ優美な文様を、たっぷりとした余白とともに配する点にあります。これは「染付」に続いて確立した伊万里の色絵様式で、1647年に初代・柿右衛門が赤絵(色絵磁器)の焼成に成功したことで、当時主流だった染付や青磁に並ぶ重要な技法となりました。様式の開発者であり最も上質な作品を生産した酒井田柿右衛門家にちなみ、「柿右衛門様式」の名を冠しています。ちなみに、濁手とは佐賀で「米のとぎ汁」を指し、海外では「ミルキーホワイト」と呼ばれます。
柿右衛門様式は、主に輸出用として欧州の王侯貴族に向けて制作されたため、貴族好みのデザインに洗練をとげていきます。国内外の客層に向け多彩な製品を並列的に生産・輸出していた取り組みに、産業として現代に通じる新しさがあります。
柿右衛門の鑑賞ポイント
一、非対称の構図/濁手の白/鮮やかな色彩
柿右衛門の意匠は、当時のファッションに通じる古九谷の意匠を受け継ぎながら完成したといわれています。寒色で余白の少ない古九谷や緻密な作風の鍋島焼と比較し、余白を活かした左右非対称な構図が特徴的です。鉄分による青みを取り除いた温かみのある乳白色が、余白の美しさをいっそう引き立てます。濁手に映える特徴的な赤色は「柿を見て」完成させたというエピソードがありますが、代によっても色に個性があり、それぞれ比べて鑑賞するのも愉しみのひとつです。意匠は時代とともに変化があり、中国磁器に代わるものとして生産された歴史から「葡萄」「栗鼠」「牡丹」など中国の吉祥文様、朝鮮時代に代表的な「梅鳥文」や、「鹿紅葉」をはじめ琳派や狩野派など日本画の影響を受けた図柄もみられます。
二、欧州向けのデザイン/「柿右衛門写し」
オランダ東インド会社からの要請ではるか欧州に輸出されていた歴史から、ティーポットなど、欧州貴族の生活スタイルにあわせたデザインを長く手掛けていた柿右衛門窯。赤・青・緑・黄に加え金彩も用いられ、テーブルがぱっと明るく華やぐ優美さが魅力です。ドイツ・マイセン、中国・景徳鎮窯など、世界各国の窯で柿右衛門を写した磁器が生産されます。ヨーロッパでは花鳥文、竹虎文などが特に人気だったようです。各国の写しと比較してもそれぞれのカラーがお楽しみいただけることでしょう。
参考リンク:工芸技法の解説・鑑賞ナビ
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