今年7月、井上萬二先生が鬼籍に入られました。
唐宋を源流とし、朝鮮半島を経て、日本・有田で花開いた白磁。萬二先生は、白磁からあえて装飾性を排することで「美」を表現しました。透き通るように冴えた白い肌と寸分の狂いも許さぬ造形は見るものを魅了し、多くの作家たちに影響を与えています。
とりわけ造形美が際立つ代表作「渦文」は、岡山から四国に渡る際に目にした鳴門の渦潮に着想を得たもの。萬二先生は旅行が趣味で、訪れた地の文化や自然を作品のモチーフに取り入れています。ちなみに旅先では必ず護国神社に立ち寄り、武勲功績を称える碑文をチェックしていたそうです。先生は戦時中、特攻隊員としての訓練を積み、学問に加え軍事学や武技を通し強靭な精神力を叩き込まれました。名誉の記録を後世に残そうという強い意志が、作陶の姿勢にも反映されているように感じられます。
戦後、「平和産業にふさわしい」という理由で父から柿右衛門窯への入門を勧められ、学ぶこと7年。ろくろ造りの至宝として知られる初代・奥川忠右衛門との邂逅を果たします。「弟子はとらない」という奥川先生のところに時間を見つけては通い詰め、独自の成形感覚を身体に刻みました。
その後、より広く深く陶芸を学ぶため佐賀県窯業試験場の技官に。釉薬、窯、陶土、デザイン――基礎を徹底的に修めた十三年は、のちに白磁を極めるうえで揺るぎない土台となりました。1969年には米国・ペンシルベニア州立大学に招かれ、半年間、通訳なしで英語を用いて講じ、翌年に独立。1995年、重要無形文化財「白磁」保持者(人間国宝)に認定。電動ろくろや磁器土の新調合など、萬二先生が伝えたものは今も、アメリカ全土で現役だそうです。
そんな超人的に思える萬二先生の作品のひとつに、このようなメッセージが添えられていました。
ARTerraceからみなさまへ
「有田焼400年の伝統を受け継いで、時代、時代の伝統をつくる」。その信念のもと、白磁の第一人者にして人間国宝、日本の白磁史に金字塔を打ち立てた井上萬二先生。先生の作品が新たに世に生まれることは、もはやありません。
訃報を受け、ARTerraceでは作品販売をしばらく見合わせてまいりました。
しかし、ARTerraceの使命は、先生が生涯大切にした美意識を「未来に受け継ぐこと」にもあります。受け継ぎ方は一通りとは限りません。
遺作が、展示室にとどまらず、人から人へと手渡されながら未来へ受け継がれていくことこそ、工芸の本来のありかたである、と私たちは考えます。
だからこそ、「作品を流通させ続け、工芸作品の需要を守る」ことで、工芸という営みを絶やすことなく未来へと継承する架け橋となりたいのです。
その役割を果たすために、ARTerraceの作品管理技術――「3Dスキャンによる作品照合技術」と「ブロックチェーンを応用した作品情報・来歴管理技術」が、いまこそ力を発揮するときではないか。
作品は博物館のように厳重な収蔵庫で守られるかわりに、次の持ち主の手で生かされていきます。ARTerraceは、先生から直接お預かりした作品を「紛れもない本物である」と証明し、作品と紐づける形で、作品情報と取引情報のデジタルデータを半永久的に保存していきます。
作品を手にするお一人おひとりが、「文化を守る担い手」となられるのです。
現在ARTerraceでは、限られた点数ながら井上萬二先生の作品をご案内しております。ご関心のある方はお問い合わせください。
井上 萬二先生からみなさまへ…
元来有田の磁器は、染付・赤絵による加飾が伝統として今日まで産業美術品としてきました。しかし私は、あえて加飾を行わず(最小限にとどめる)白磁の凛とした形・技・感覚と心で作品を生み出しています。古来日本には、幾多の工芸があります。その尊い伝統技術を受継ぎ、また自身の感覚で生み出した現代の作家の想いを作品を通じて感じて頂ければ幸いです。
▼「渦文」シリーズ
井上萬二
井上萬二
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