
ひなまつりは「桃の節句」とも呼ばれ、3月3日に女児の健やかな成長を願って祝われる行事です。季節の節目を分ける「節句」の起源が、古代中国の「奇数が重なる日は災厄が起こりやすい」という言い伝えにあり、厄を払う目的で邪気払いの花木が生けられるようになりました。
日本において桃は、古来より魔除けの効果と長寿をもたらす神聖な花とされ、神話にも数多く登場します。桃の木で作られた弓矢で鬼除け、桃の枝を畑にさして虫除けにといったおまじないをご存じの方もいらっしゃるでしょう。
腰部分の編み上げの力強い曲線が、桃をいっそう引き立てる竹花器をご紹介いたします。
▼作品紹介
◆竹工芸◆束編花籃「銀嶺」
この作品を手がけられた武関 翠篁先生は、重要無形文化財保持者 飯塚小玕斎(しょうかんさい)に師事、東京・谷中にて創業110年余の「竹工房 翠屋」を継承しています。国内外問わず展覧会出品歴を多数お持ちで、文化庁文化交流使としてドイツで竹工芸の普及活動にもご尽力されています。作品制作は構想にはじまり、竹を実際に取りに行き、竹割り、編み上げまで全工程を手がけられるそうです。竹工芸の様式美を芸術に昇華した表現をお楽しみください。
~武関 翠篁先生からみなさまへ~
8本束ねて編み、これを白波に見立て、形は遠くに望む銀嶺の山をイメージしました。束ね編の力強さと立体感がこの作品の特徴です。このままでも鑑賞できますが、四季折々の花を入れると一層映えます。
※「第2回日本工芸会会員賞 飛鳥クルーズ賞」受賞者による作品です
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ひなまつりの原点に「流しびな」という行事があります。これは、和紙の人形を身代わりとして川や海に流す「形代(かたしろ)」という禊の習わしが、平安貴族の子女たちの「ひいな遊び」と結びつき、現代まで伝えられているそうです。
日本の自然観において川や海は、穢れを清め浄化する場所とされてきました。流れる水が新たな生命を育む再生のイメージとも結びついています。
螺鈿と蒔絵の輝きがはじける水しぶきを、色切貝と漆黒の対比が砂浜に揺れる鮮やかな影を思わせるような、自然の力強い躍動が美しく表現された作品をご紹介いたします。
◆漆芸◆ 色切貝飾箱「風波」
松崎森平先生は、漆芸作家として神奈川県を拠点に螺鈿や蒔絵での作品制作をなさるかたわら、近年は蒔絵技法を応用し画家としても活動なさっています。また、夜光貝を用いた沖縄独自の螺鈿技術を学ぶために沖縄で研究制作を行うなど、拠点を越えて研究活動にも熱心でいらっしゃいます。創作以外には、日本文化財漆協会 岩手県植栽地担当理事として漆の木の植栽活動を行い、漆文化を次世代に残すためご尽力されています。
〜松崎 森平先生からみなさま~
自然の中に感じる美しい流れに着目しました。「風波」は風が吹いて起きる波のことで、作品では自然が躍動する生命力を表現しています。波と風両方を連想させる流れは、抑揚を持ち遠くで消えていきます。用途のある形の中で、爽やかな風ときらめく水しぶき、日に照らされた波を思い起こしてもらいたいです。
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江戸時代に入ると、京都御所で行われていたひなまつりの風習が大奥で盛大に執り行われるようになり、広く関東地方にも普及していきました。このころから、豪華な段飾りや、三人官女、五人囃子を配した華やかな雛壇飾りがみられるようになります。
ひな壇を華やかに彩る三色の菱餅や雛あられも、桃色(紅)は魔除けや厄除け、白色は長寿と子孫繁栄、緑色は健康と厄除けといったように、それぞれ祈りが込められた縁起物です。この三色はともに、桃色が桃の花を、白色が雪を、緑色が新緑というように、春の訪れの視覚的な表現でもあります。紅、白、緑の映える作品を順にご紹介します。
鯉江 廣先生は、平安末期の陶祖鯉江方寿の技術を代々受け継ぐ陶芸作家です。人間国宝三代山田常山先生に見いだされ、常滑急須を芸術の域に高めるべくご活躍されています。
「あけぼの彩」は、備前焼の緋襷の技法を応用して模様を銀化させた鯉江 廣先生オリジナル技法です。「年齢や国内外問わず多くの人の心を打つ作品を」と、薄く・軽く・使いやすいことはもちろん、モダンデザインを積極的に取り入れ、急須に高台をつけるなど革新的で創造性あふれる作品を多く生み出しています。
◆陶芸◆あけぼの彩 茶注
~鯉江 廣先生からみなさまへ~
常滑特有の朱泥土をいぶし焼成することで釉彩によるグラデーションにしました。夜明頃をイメージし宇宙(そら)を表現しています。上煎茶以上の茶葉で至福の時をお過ごしいただきたいと思います。
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◆切子◆硝子切子鉢「翠泉」

硝子工芸切子の歴史は、江戸時代に交易でもたらされた舶来ガラス製品の美しさが、日本の職人たちに感動を与えたところから始まります。
カガミクリスタルやノリタケに出向し多くの優秀な人材を育てあげ、近代美術館に作品収蔵される伝説の職人・小林菊一郎氏の技術を受け継ぐ、氣賀澤雅人先生の作品です。江戸切子・薩摩切子や海外のカットグラスなどの復刻のご経験を活かし、厚みのある素材を深くカットすることで、ガラスに宝石のような魅惑的な輝きを与えています。
〜氣賀澤 雅人先生からみなさま~
竹細工の編み込み模様をヒントに制作。ガラスの魅力は光の反射と映り込みです。きらきらと輝く宝石を散りばめたような豪華さと、上部の動きのある編み込み模様が見どころです。
◆陶芸◆白瓷面取盃

前田 昭博(まえた あきひろ)先生は、大阪芸術大学で教鞭をとられ、紫綬褒章受章、重要無形文化財「白磁」保持者(人間国宝)に認定されるなど、日本工芸界を代表する作家の一人です。面取りを施した柔らかで洗練された姿に、透明感のある釉薬を掛けた作品は、光と影による陰影が美しく現代的で、独特の温かみの感じられる肌合いも魅力的です。国内外の展覧会で数多くの受賞を果たし、美術館にも作品が収蔵されています。
〜前田 昭博先生からみなさま~
盃の造形は内側を丸い形に、外側を四面に面取しております。小さいながらフォルムの造形を楽しみながらお使い頂けたらと思います。身近に工芸作品を置き、鑑賞あるいは手にとって使っていただくことで、心の豊かさや安らぎを感じていただければ幸いです。
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ひなまつりは本来性別を問わず広く行われていた、無病息災を願う行事です。春の訪れを祝い健康と平穏を祈るひとときとして、今年の桃の節句を迎えてみてはいかがですか。