
四季折々の自然の変化を楽しむことは、日本文化の根幹にある美意識の一つです。その中でも、二十四節気の最初を飾る「立春」は、冬至と春分の中間に位置する節気であり、春の始まりをあらわす特別な節目とされています。
一方で、二月は「如月(きさらぎ)」とも呼ばれ、「衣更着(きさらぎ:さらに衣を重ねる)」が語源という説があるほど古来より寒さが厳しい時期であり、ひとびとは、冬の厳しさのふとした瞬間に宿る春の兆しを「新しい命が芽吹く前触れ」として大切にしてきました。
梅に雪の情景が一例で、雪と梅の花が織りなすコントラストは自然がつくり出す芸術そのものといえましょう。冬と春の対比がひとつの風景の中で調和している美しさ、春を迎える喜びや期待感を、日本人はさまざまな形で表現しています。
今日降りし雪に競ひて我がやどの冬木の梅は花咲きにけり
万葉時代にはまだ紅梅は日本に渡来しておらず、雪と白梅の「白」の世界が多く詠まれています。
はじめにご紹介する作品は、素地より白い化粧土を塗ると同時に墨はじき技法で白い文様を筆書きする「雪花墨はじき」というオリジナル技法によって、透明感のある白地に精緻な雪の結晶文様が、見えるか見えないかという絶妙な白の描き分けによって表現されています。
▼作品紹介
◆陶芸◆色絵雪花墨はじき雪文碗/いろえせっかすみはじきゆきもんわん
~十四代 今泉今右衛門先生からみなさまへ~
白の微妙な表現として編み出したオリジナル技法の「雪花墨はじき」。見えるか見えないかの儚い雰囲気を楽しんでいただければ嬉しく思います。
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つづいて、上品な梅文様と流れるような木目が美しい欅の「挽物(ひきもの)」技法で制作された作品をご紹介します。
京都「清水の舞台」を支える柱で広く知られているように、欅の強靭で耐朽性のある材は寺社の建築材や和太鼓の胴として用いられています。欅からつくられた道具は縄文時代の遺跡からも発掘されており、日本人の生活に欠かせない木のひとつです。
川北 良造先生の作品の一部は、文化遺産として文化庁分室に保管されています。

◆木工芸◆ 﨔造梅文嵌装盛器/けやきづくりうめもんがんそうもりき
〜川北 良造先生からみなさまへ~
流れの様な木目に春先を感じ、側部に梅文透し嵌装を入れています。日本は古来より多種多用に木に親しみ使用してきました。工芸品は使用する事でその良さが味わえ、日常と場の演出にも楽しめる事と思います。
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梅は、寒さの厳しい時節にどの花より先だって咲くことから「百花の魁(さきがけ)」といわれ、待ち遠しい春を一足先に楽しめる花としても愛されてきました。
清少納言「枕草子」には「木の花はこきもうすきも紅梅」との記述がみられ、いわゆる「早春のトレンドカラー」として紅梅色をおすすめしています。つまり、紅梅は平安時代に伝来してきたというわけですね。
こちらでは、混じりけなく美しい雪解け水のような切子に、明るく澄んだ「金赤」の螺旋が映える作品をご紹介します。なお、ひとくちに切子の赤といっても一色ではなく、素材と冷却温度によって「金赤」、「銅赤」または「紅」と呼ばれる色があります。定番色の「金赤」もさまざまで、この作品はクリアな梅重色の趣を備えています。
ガラスは1000度以上に熱し溶かして成形しますが、この冷却時の温度変化のあんばいで、「金赤」か「銅赤(紅)」に発色が変わるのだそうです。こうした色付きのガラスは温度変化に厳しく気を配りながらゆっくりと冷却しなければなりません。職人の腕が問われる工程です。
お好みの色味を探すひとときも切子作品の魅力です。

◆切子◆螺旋ロックグラス(赤)
~氣賀澤 雅人先生からみなさまへ~
ガラスの魅力は光の反射と映り込みです。きらきらと輝く宝石を散りばめたような豪華さが見どころです。
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2月はまだお花が少ない季節ですから、寒椿がお庭にあると華やかですね。
椿が鑑賞対象となったのは、実は江戸時代といわれています。狩野山楽筆とされる「百椿図(ひゃくちんず)」にみられるように、17世紀初頭から中頃に椿園芸が流行し、漆器や文箱などを花器に見立てたさまざまなフラワーアレンジメントが考案されています。
ARTerraceからは、華やかな椿文様の作品をご紹介します。
望月先生の陶芸作品は、ご自身の表現にあわせ、産地などにとらわれず様々な原料や技法を自由に用いて制作されています。代表的な表現は陶土に長石釉を施し、鉄絵や赤絵・色絵・金彩などを用いたもので、当作品は特に、赤や金色と艶の無い白い地肌の組み合わせが椿のモチーフとマッチして特徴的な作風をたたえています。 
◆陶芸◆ 花文壺「椿」
~望月 集先生からみなさまへ~
椿の花をモチーフにした作品です。花咲き誇る姿。生命力あるそんな姿はとても魅力的です。作品からもそのような雰囲気を感じ楽しんでいただけたらと思います。
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立春は、旧暦では新年の始まりとされ、新しい年のスタートや運気の切り替わる日として重要な役割を持っていました。前日である「節分」の日に豆まきを行うことで厄を払い、新しい年を迎える準備としていたそうです。
立春は暦の上の節目であるだけでなく、自然界においては、少しずつ日が延び植物が芽吹き始めるころでもあります。自然の変化とともに、新しい目標や挑戦に向けて計画を立てるのも素敵な過ごし方ですね。
最後に、「白」の世界を追求し、繊細な白磁にシルクのような光沢感を含ませた「白妙磁(しろたえじ)」を開発。品格を備えた造形と陰影の作品が高く評価されている庄村 久喜先生の作品をご紹介します。

◆陶芸◆種/たね
~庄村 久喜先生からみなさまへ~
作品「種」には、誕生、再生、成長、そして静かな強さといった多様なイメージが込められています。この作品には深いメッセージが宿り、見る人が自分自身の物語を重ねて希望を見出せるような存在であってほしいと願っています。
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伝統工芸を通じて、日々移りゆく自然に思いを馳せる豊かなひとときをぜひお楽しみください。