人間国宝・山岸一男先生 × 漆芸家・室瀬智彌先生 ×飛鳥III 特別対談

2025年8月13日
お知らせ

2025年8月6日(水)、客船「飛鳥Ⅲ」6デッキ「リュミエールシアター」にて、重要無形文化財「沈金」保持者(人間国宝)山岸一男先生と漆芸家・室瀬智彌先生による特別対談公演「能登のやさしさはつちまでも」、およびワークショップ「箔絵皿」の案内

「能登のやさしさはつちまでも」

人間国宝・山岸一男先生 × 漆芸家・室瀬智彌先生特別対談公演 & Workshop「箔絵皿」

― 能登の震災を乗り越え、漆芸の伝統と未来を船上から発信 —

 2025年8月6日(水)、客船「飛鳥Ⅲ」6デッキ「リュミエールシアター」にて、重要無形文化財「沈金」保持者(人間国宝)山岸一男先生と漆芸家・室瀬智彌先生による特別対談公演「能登のやさしさはつちまでも」、およびワークショップ「箔絵皿」が開催されました。

 講演では、室町時代中期から七百余年にわたり受け継がれてきた輪島塗の歴史と、能登半島地震で大きな被害を受けた産地の現状、「いかにして歴史ある伝統を次世代へ継ぐか」という人間国宝としての使命感を語られました。続いて室瀬智彌先生の解説を交えた山岸先生の沈金実演、その後の特別対談では飛鳥Ⅲ船内の割烹レストラン「海彦(うみひこ)」に飾られた、全国の漆作家による合作壁画「海游(かいゆう)」の制作秘話に触れられました。

▲飛鳥III船内「海彦(うみひこ)」にて、漆芸作品「海游(かいゆう)」

 「海游」は縦約1メートル、横約5メートルに及ぶ輪島塗の大作で、沈金、蒔絵、呂色など各分野の匠らが手掛け、大海原のうねりを超え港を目指す船から見た波を精緻な技法で表現しています。

 沈金部分は山岸先生の弟子である水谷内修さんと山岸優羽さん、呂色は大橋清さんが担当。原画は蒔絵の人間国宝・室瀬和美先生によるもので、輪島以外にも東京・四国・沖縄の漆芸家の技を結集した作品です。山岸先生は「蒔絵と沈金を重ねるように組み合わせた作品は珍しく、また日本産漆ならではの透明感に金の輝きが際立つ」と評されました。

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 特別対談では、山岸先生と室瀬智彌先生が、沈金や蒔絵の技術を惜しみなく用いた「海游」について、その制作過程や技術的難度等を、山岸先生の実演と制作過程の写真を交えて解説しました。
 日本産「透漆(すきうるし)」の水あめのような透明感、蒔絵と沈金それぞれの金の表情の違い、刃の繊細なコントロールが求められる長尺彫りの緊張感など、専門家ならではの実感のこもった言葉が観客を魅了。
 室瀬智彌先生は「漆でしか表現できない質感を存分に楽しんでほしい」、山岸先生は「これをきっかけに若手が漆に興味を持ち、次代を担う存在が育つことを期待したい」と締めくくりました。
実演で完成した金加飾のパネルは、山岸先生のご厚意により本船へ寄贈され、日本が誇る漆芸の未来への願いが船上に刻まれました。講演終了後は、作品を一目見ようと多くの方がステージに詰めかけました。
 

「海游」制作過程。多くの作家・技術者が協力して一つの作品が紡がれる。写真左手が室瀬智彌先生,右手が人間国宝である父・室瀬和美先生

山岸一男先生による漆芸・沈金実演の様子。

 対談の後、室瀬智彌先生による「箔絵皿」制作ワークショップが開催されました。予約枠はすぐに満席となり、先生の優しい語り口と的確なアドバイスのもと、参加者は金箔や漆を使ったオリジナル作品づくりに挑戦しました。

 完成品には室瀬先生が仕上げを施し、最終日に船上で作品発表会が行われました。

「箔絵皿」制作ワークショップが開催されました。予約枠はすぐに満席となり、先生の優しい語り口と的確なアドバイスのもと、参加者は金箔や漆を使ったオリジナル作品づくりに挑戦しました。「箔絵皿」制作ワークショップで使われた道具と、完成作品

 事前告知は行わず、船内デジタルサイネージや情報番組「モーニングシャワー」、「アスカデイリー」でのみ周知された本イベントは、乗船客にとって思いがけない漆芸との出会いの機会となりました。

事前告知は行わず、船内デジタルサイネージや情報番組「モーニングシャワー」、「アスカデイリー」でのみ周知された本イベントは、乗船客にとって思いがけない漆芸との出会いの機会となりました。

こぼれ話◆山岸一男先生 × 室瀬智彌先生の出会い

 室瀬智彌先生は大学在学中に漆芸を志し、人間国宝である父・室瀬和美先生の助言を受け、石川県立輪島漆芸技術研修所へ進学します。そこで3年間にわたり山岸一男氏に師事します。

 二人が初めて出会ったとき、智彌先生は受験生、山岸先生が面接官でした。志望動機に『漆を媒体にして世界に打って出たい』と語っていたのを今も鮮明に覚えています。そんな学生を見たのは初めてだった」と、山岸先生は振り返ります。智彌先生は笑いながら「世間知らずでございました」と答えましたが、山岸先生は「いまや世界各地へ航路を延ばす飛鳥Ⅲに乗船し、その船内を飾る作品を手掛けている。かつての夢がこうして現実になりはじめている」とエールを送りました。二人の言葉には、漆のように時を経てなお深みを増す絆が宿っていました。