大谷早人先生は、香川県高松市を活動拠点とする漆芸作家です。細く割いた竹ひごを編み上げて器の素地を作る「籃胎(らんたい)」と、漆の表面に文様を彫り色漆を埋め込む「蒟醤(きんま)」。この二つの高度な技法を融合させた「籃胎蒟醤」を極め、2020年に人間国宝に認定されました。
大谷 早人 先生からのメッセージ
私の作品はすべて竹ひごを編んで制作する「籃胎漆器」です。木材より変形の少ない竹ひごを使用、長く使っていただける器づくりを心がけており、香川の伝統技法である「蒟醤」で加飾しています。
日本という資源に乏しい国で子や孫の代まで使える作品を作り続けたいと思っており、伝統工芸という分野に若い世代の人たちに興味を持っていただければ幸いです。飾って鑑賞するだけでなく、実際に使っていただき良さを体感していただきたいです。
島での出会いから始まった漆芸への道
大谷先生の漆芸への道のりは、香川県の男木島で過ごした小学6年生の時に始まります。島に美術教員として赴任してきた漆芸家・太田儔(おおた ひとし/後の人間国宝)先生との出会いが、漆芸の世界へと導く原点となりました。高校の漆芸科を卒業後、正式に太田先生に師事。恩師から受け継いだ極めて精緻な技法を、生涯をかけて磨き上げていくことになります
緻密な手仕事が描き出す、生命の躍動
大谷先生の代名詞である「籃胎蒟醤」は、制作に膨大な時間と途方もない根気を要する仕事です。しかし、完成した作品は堅牢でありながら驚くほど軽量。その緻密な竹編みの素地の上に、先生は色漆を用いて自然の情景を絵画のように描き出します。 コスモスなどの草花、乱舞する蝶や水辺のカワトンボ。香川漆器の伝統的な幾何学文様に留まらず、彫りの深さや線の重なりによって立体感と色彩のグラデーションを生み出し、日本の豊かな自然や生命の息吹を詩情豊かに表現しています。
伝統の技を、次世代の日常へ
「日本という資源に乏しい国で、子や孫の代まで永く使える作品を作り続けたい」。大谷先生はそのように語ります。籃胎の「軽くて丈夫」という実用性と、蒟醤の「装飾美」の融合には、飾って鑑賞するだけでなく、実際に使ってその良さを体感してほしいという強い願いが込められています。 また、人間国宝としての重責を胸に、「漆の家(Maison de Urushi)」というプロジェクトを立ち上げ、ワークショップなどを通じて若い世代への伝統工芸の普及にも熱心に取り組まれています。
ARTerraceで触れる「用の美」
単なる一作家の枠を超え、実用性と美しさを兼ね備えた日本特有の「KOGEI(工芸)」の精神を体現し続ける大谷先生。ARTerrace(アーテラス)では、代表作『籃胎蒟醤箱「秋の野」』のお取り扱いがございます。途方もない時間をかけて編まれた竹の温もりと、漆のなかに息づく鮮やかな自然の情景から、大谷先生が紡ぎ出す「用の美」をぜひ身近に感じていただければ幸いです。


