12月特集〜銀を味わう伝統工芸品〜

高い熱伝導率が特徴の純銀素材の酒器、打ち出しや独自技法「撹拌文」で制作された合子、神秘的な風合いの朧銀を用いた作品などをご紹介します。

12月特集コラム 〜銀を味わう伝統工芸品〜
 
 
冬晴れの澄んだ空の下、初雪が舞い降りる季節となりました。 日本では、雪景色が一面に広がる様子を「銀世界」と表現することがあります。「銀」を「しろがね」とも読むように、銀は白く光り輝く様子を例える言葉として使われてきました。
 

銀の魅力と歴史

銀は、非常に高い光の反射率を持つ金属で、研磨することで独特の美しい輝きを放ちます。そのため、古代から装飾品や工芸品の素材として世界的に用いられてきました。日本に銀が伝わったのは紀元前1~2世紀頃とされ、国内初の銀山が発見されたのは7世紀のことです。その後、日本の銀生産は石見銀山を筆頭に17世紀に最盛期を迎え、世界の生産量の約3分の1を占めるまでになりました。この豊かな資源は、貨幣として日本経済を支えただけでなく、工芸の世界でも重要な役割を果たしました。
 

純銀を用いた作品

銀は金属の中で最も熱伝導率が高い特性を持ち、鍋や酒器といった日常使いの工芸品にも広く利用されています。熱を均一に伝える特性は、料理や酒の繊細な風味を引き出します。以下は純銀を素材とした注目の作品です。
 
~萩野 紀子先生からみなさまへ~
独楽のイメージで制作。童心に返り子供のころの楽しい思い出を語りながらお酒をのんでいただけたらと思います。
つむくり酒器セット(萩野 紀子)
 
 
~押山 元子先生からみなさまへ~
犬は、一枚の純銀板を打ち出して制作。身の部分は、撹拌文という独自技法で自然観を表現しています。鑑賞して癒されるものになればと思います。

犬合子(黒)(押山 元子)

朧銀について

朧銀(おぼろぎん、ろうぎん)は、桃山時代に発明された合金の一種です。銅に4分の1の銀を加えて作られることから「四分一(しぶいち)」とも呼ばれます。この合金を磨き上げた後に硫酸銅などを溶かした液で煮込むと、表面に薄い被膜が形成され、艶消しの効果が生まれます。仕上がりは霞がかったような銀色で、奥深い色合いが特徴です。その神秘的な輝きは、武士や茶人に広く愛されました。
「朧」とは「朧月夜(おぼろづきよ)」のように、ぼんやりとした柔らかい情景を指す言葉です。朧銀の色合いは、曖昧で捉えどころのない美しさの中に趣を見出す日本人特有の感性が生み出したものといえるでしょう。

朧銀を用いた作品

 
~中川 衛先生からみなさまへ~
江戸時代から伝わる加賀象嵌(平象嵌)技法を使っています。本作は多く象嵌してあり、金属(朧銀、銀、金、赤銅)の輝きが出ています。金属の研磨による各種の象嵌の光沢を感じ取っていただけると嬉しいです。
象嵌鴛鴦香合(中川 衛)
 
~奥村 公規先生からみなさまへ~
日本に古くから伝わる素材、技法を生かし、現代の生活に溶け込む作品づくりを心がけています。本作は、日本独特の合金・四分一の特徴を生かし制作。生命の生成、創造、再生を象徴するスカラベをモチーフにしました。
 
朧銀地小匣 「あした・・・」(奥村 公規)