9月特集 〜 月を愛でる伝統工芸品  月モチーフの花籃や花器〜

月見で欠かせない芒を生ける風習にちなみ、月モチーフの花籃や花器などの作品をご紹介します。 工芸品を通じて、先人たちが月に寄せた思いや、その美意識をのぞき見てみませんか?

ARTerrace 9月特集コラム 月を愛でる伝統工芸品(月モチーフ作品)

 

まだ残暑の厳しい日が続いていますが、次第に涼やかな風が感じられるようになり、虫たちの音色が夜の静寂を彩る季節となりました。時折、雲間からのぞく月が、秋の訪れを静かに告げています。9月、日本中の人々が心待ちにするのが「中秋の名月」です。雲を抜けて姿を現す満月の美しさを愛で、季節の風情を楽しむ月見の風習は、古くから受け継がれてきた日本の風雅な伝統行事です。

中秋の名月は、月の満ち欠けなどを用いて計算する「旧暦」の8月15日の満月を指します。現在の新暦では9月中旬から10月上旬に当たり、毎年日にちが変わります。「中秋」とは、秋の真ん中という意味で、この時期の月が最も美しいとされてきました。

月見の風習は、奈良時代に中国から伝わったとされています。当初は宮中行事として始まり、貴族たちが月を愛でながら詩を詠み、音楽を奏でるなど、雅やかな宴として楽しまれました。

月見の際、欠かせない風物詩の一つが芒(ススキ)です。秋の七草の一つでもある芒は、その切り口が鋭いことから、邪気を払う魔除けの意味もあります。そのため日本人は古くから、この芒を月見の供え物として大切にしてきました。また、芒の姿が稲穂に似ていることから、豊穣祈願の象徴としての役割も担っていました。

日本の工芸品には、月をモチーフにしたものが数多く存在しますが、興味深い点は、必ずしも月そのものを直接的に表現するだけではないという点です。 月そのものだけでなく、月光できらめく水面や、月を眺める人の姿など、月にまつわる様々な情景にも美を見出しています。このような多様な表現は、日本人の繊細な感性と、自然との深い結びつきを反映しているといえるでしょう。 

さらに、月見で欠かせない芒を生ける風習にちなみ、花籃や花器などの作品も併せてご紹介します。 工芸品を通じて、先人たちが月に寄せた思いや、その美意識をのぞき見てみませんか?

 

透胎七宝鉢「月光」(池田 貴普)

~池田 貴普先生からみなさまへ~

夜の海に月光があたり波が揺らめく様子を表現しました。

こだわりポイント:側面の文様は銅板を糸ノコで切り透かして釉薬だけの状態にし、模様が透けるようにしているところです。

 

辺月(中村 信喬)

~中村 信喬先生からみなさまへ~

400年続く博多人形の技法を通じて、中村家107年間代々人形技法を継承しています。この作品は天正時代に遣欧使節としてヨーロッパに向かった少年で、辺境の地で月を見上げている姿をあらわしています。

 

束編花籃「銀嶺」(武関 翠篁) 

~武関 翠篁先生からみなさまへ~

8本束ねて編み、これを白波に見立て、形は遠くに望む銀嶺の山をイメージしました。束ね編の力強さと立体感がこの作品の特徴です。このままでも鑑賞できますが、四季折々の花を入れると一層映えます。

 

吹分花瓶(般若 泰樹)

~般若 泰樹先生からみなさまへ〜

吹分とは、異なった材質を別々の坩堝で同時に溶解し、それを一つの鋳型に同時、又は交互につぎ込み器物を作る技法です。この花器は黒色の黒味銅(くろみどう)と結晶の出た梨地の黄銅(おうどう)と銅を順次鋳込んで制作しました。注ぎ込んだ3種の熔融金属が冷え固まるまでに互いに入り組み、混ざることで幽玄で神秘的なグラデーション文様を表現できるのがこの技法の特徴です。また、その文様は、注ぎ込む勢いや金属の温度、鋳型の温度など様々な条件に左右されるので、同じ文様は二つと無い一品作となります。