7月特集 〜螺鈿を愛でる 伝統工芸:彫漆、色貝蒔絵飾箱、彩切貝小箱 、蒔絵棗〜

日本伝統工芸でも人気の高い、貝を用いた装飾技法の代表「螺鈿」。今回は彫漆箱、色貝蒔絵飾筥、彩切貝小箱 、蒔絵棗をご紹介します。

 日本伝統工芸における、貝を用いた装飾技法の代表的なものは「螺鈿」です。今回は彫漆箱、色貝蒔絵飾筥、彩切貝小箱 、蒔絵棗をご紹介します。

ARTerrace 7月特集コラム 螺鈿を愛でる

真夏の日差しの中、海開きの季節となりました。砂浜へ足を運ぶと、ふと目に入る貝殻の美しさに心が奪われます。自然美の象徴のようなその色彩と形状は、古くは10万年前から世界中で愛され、今日に至るまで装身具や工芸品に様々な形で用いられてきました。

 日本における、貝を使った装飾技法としては「螺鈿」(らでん)が代表的なものとして挙げられます。螺鈿は、アワビや夜光貝などの貝殻の輝いた部分を薄くして彫刻を施し、漆器の表面や木地などにはめ込む技法です。

 

▼螺鈿の詳しい技法については、こちらのコラムをご覧ください▼

螺鈿について 

螺鈿は紀元前3000年頃のエジプトで始まり、日本へは奈良時代に中国の唐から伝来したと考えられています。正倉院宝物には螺鈿の装飾が施されたものが数多く見られます。

平安時代になると楽器や寺院の装飾として貴族たちの間で流行し、螺鈿の文化は急速に発展しました。黒漆の下地の上に金の砂子を蒔き、その上に貝類を象嵌(ぞうがん)するという技法は「螺鈿蒔絵」(らでんまきえ)と呼ばれ、日本で生み出された独自の技法です。シンプルな黒地に映える貝や金箔の文様は素材それ自体の美しさが最大限に引き出されており、細部にわたる精緻な技術が伺えます。

 

▼蒔絵の詳しい技法については、こちらのコラムをご覧ください▼

蒔絵について

平安時代の日本の家屋は、障子などを通してほんのりと日光を取り入れる様式が美しいとされていました。夜はろうそくの灯りや月明かりだけで過ごしており、その僅かな光を愛でるのが日本独自の美学と言えます。部屋を明るくするのではなく、暗い部屋でこそ浮き立つような装飾を楽しもうという美意識が「螺鈿蒔絵」からも感じられます。

現在までその技術は受け継がれ、現代的なデザインと組み合わせた作品も多く見られるようになりました。ここで、螺鈿や蒔絵の技法を用いた工芸品をいくつかご紹介します。自然が生み出す素材の美しさと繊細さを追求する、日本独自の美学を味わってみませんか?

 

彫漆箱「波光」(松本 達弥)

~松本 達弥先生からみなさまへ~

主に彫漆(ちょうしつ)技法を中心に制作しています。故郷、香川から見る瀬戸の波は穏やかであるが島影に陽が沈むころ波が踊りだす、そのような夕陽に照らされた波頭の情景を表現しました。

 

色貝蒔絵飾筥「南」(松崎 森平)

~松崎 森平先生からみなさまへ~

沖縄をはじめとする南方の異国文化への憧れが表現されています。日本の伝統漆芸技法と海外の素材を組み合わせることで新たな表現を目指し、大理石を削り出して蓋を作成し蒔絵で装飾しています。

 

彩切貝小箱 CityⅠ(三好 かがり)

~三好 かがり先生からみなさまへ~

海の底で育まれた貝たち。そのかけらはちりばめられて、やがて漆黒の上で街の灯になります。ビルの谷間からのぞく空とビルの姿の小箱を作りました。

 

蒔絵棗「銀河」(田口 義明)

~田口 義明先生からみなさまへ~

満天の星、宇宙を表現。アワビ貝の薄貝を赤と青に色分けて細かく切り分け、一つ一つ貝を貼り置き、その上に蒔絵で変化を加えました。